コラム
Column
発明の模倣を排除する手段である特許制度も法制の一環であるから、その保護は国ごとに行われる。よって、日本で特許を取得してもその効力は外国には及ばず、外国でも模倣を防ぎたいのならその国の特許を取得する必要がある。そのためには、出願・審査といった手続を、必要な国ごとに、それぞれの国が求める様式・言語に合わせて行う必要がある。これはなかなか煩雑であるため、せめてその入り口だけでも国際的に統一した共通手続にしよう、というのがPCT出願である。
この制度は、特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)に基づき、世界知的所有権機関(WIPO)の国際事務局(在.スイス)により運営されている。開始から既に40年に迫る歴史を持つ制度である。
一般報道記事で、「国際特許」なる語を目にすることがある。しかし国境を越えて世界中で通用するような権利は存在しない。記事で言っているのはおそらく、同一内容について複数国で特許を取得した状態のことであろう。
複数の国で特許を取得するための出願手続として、PCT出願がある。これを使えば、とりあえずは日本語の文書を日本国特許庁(受理官庁)へ提出するだけで、世界の多くの国々へ出願したことになる。つまり出願の時点では翻訳の必要がない。これが、PCT出願の利点の一つである。
ただしそれだけで各国の特許権が付与される訳ではない。必要な国における審査、登録という手順を踏む必要がある。このため、PCT出願の後、所定の期間内に、必要な国の国内段階への移行手続を行う必要がある。このときには結局、移行先国の言語への翻訳文が必要となる。以上がPCT出願の大筋である。
PCT出願については、いくつかの特有の制度が設けられている。
国際出願日とは、必要な書類を受理官庁に提出した日のことである。この日が、各移行先国の国内段階でも出願日として扱われる。優先権主張も可能である。なお、日本国特許庁の他、一部の外国特許庁や国際事務局を受理官庁とすることもできる。
国際調査とは、PCT出願の発明に対する公的な先行技術調査であり、サーチレポートと通称される。国際調査機関(日本国特許庁もそう)により実施される。発明の特許性についての見解も示されるので、実質的に通常の審査とだいたい同じようなことがなされると言える。
国際調査の結果次第では、各移行先国での審査を通せそうもない、と判断できる場合がある。その場合には、以後の手続きをしないことで、無駄な経費の発生を防ぐことができる。翻訳に着手する前にこの判断材料が得られることも、PCT出願の利点の一つである。
当初の請求項のままでは特許取得が見込めない場合には、国際段階にて補正することができる。
別途請求により、国際調査での特許性の有無についてさらに国際段階での公的な評価を求めることができる。これが国際予備審査である。一部の移行先国を除き、国内段階への移行期限を先延ばしできる効果もある。
国内特許出願が出願公開されるように、PCT出願の内容も公開される。これを国際公開という。国際公開には、国際調査の結果も添付される。
移行手続とは、特許取得の目的国の国内段階へ出願を係属させる手続である。ここからは、各移行先国の言語での手続となる。移行先国では、その国の国内法令に基づき改めて審査が行われる。
移行先国の選び方は悩ましいところだが一般的には、市場規模の大きい国、主要な競合相手企業の所在国、自社海外工場の進出先国などが選ばれるようである。ただし、PCT未加盟の国または地域への移行は出来ない。
このようなPCT出願制度であるが、各国へ優先権主張とともに直接出願するいわゆるパリルート出願に対する大きな利点は、先にも述べたが出願時に翻訳が不要なことであろう。
一方、費用面では、途中で断念する場合を除き、大きな利点はない。しかしながら、国内市場の成長期待感が乏しく海外市場の重要性が高まる中、外国における知的財産権の確保はこれからの事業活動の生命線とも言える。実際、最近の統計によれば、通常の特許出願件数が減少気味なのに対してPCT出願の件数は漸増傾向にある。
また、このような外国知財の重要性の高まりに鑑み、外国出願(PCT出願も含む)のための種々の費用軽減あるいは助成の制度が拡充されてきている。これらの支援制度をうまく活用しながら賢くPCT出願を利用して、海外における事業展開を図って行きたいところである。
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