はじめに

こんにちは。弁理士の富澤です。今回は弁理士になるための「弁理士試験」について、またはそのほかの資格受験全般について、私の体験を交えてお話したいと思います。
私は弁理士試験合格後、弁理士試験の対策講座を行っているLEC東京リーガルマインドの名古屋校・大阪校で講師をやらせていただきました。
LEC東京リーガルマインドの入門講座を担当していて受講生からの質問で多いのが「どうやって勉強をすれば合格できますか」といった勉強方法や「どれくらい努力すれば合格できますか」といった勉強量についてのものです。

私は弁理士試験に合格するまでに5年かかり、苦労しました。長い期間の勉強を要する資格の取得を目指す場合、その意欲を持続することは容易ではありません。そこで、私が弁理士試験の受験時に実践した「勉強の意欲を持続させる方法」を紹介します。

合格未来日記

「どれくらい努力すれば合格できるのでしょうか」と質問される方の多くは、すでに努力をしている状態の方が多いように思います。そうした努力をしている方には「勉強日記を作っていますか」とよく聞きます。せっかく努力をしているのだから、その実りを日記に残さないのはもったいないと思うからです。
私自身も受験生のときには「合格未来日記」と名付けた勉強日記を付けていました。このネーミングには「合格という未来に向かって逆算して動くための日記」という意味があります。資格取得のために努力をしている方・これからしようと思う方にはぜひこの合格未来日記を作ってほしいと思います。

合格未来日記の作り方

1.ゴールを記載する

最初に行うことは、合格発表日を記入することです。私が合格した2008年の合格未来日記には、合格発表日と合格したことが先に記入されています(写真)。

このとき合格したことを、過去完了形で書くことをお勧めします。合格ということが単なる願望ではなく、実現したこととする具体的な未来として意識するためです。近い将来に実現して完了することと考えると、その前に行うすべての努力はその「合格」に向かっていることと捉えられます。

2.ステップを記入する

次に、一次試験、二次試験、最終試験のような試験の段階の日付を記入します。
私の場合には、2008年は6月29日に論文式筆記試験(弁理士試験の第2ステージ)があったため、6月29日にその試験の予定が書き込まれています。記入時点で試験の日程がまだ公表されていない場合には、前年の試験日などを参考に目安を書き込むとよいでしょう。

3.逆算日付を記入する

次に、一次試験、二次試験、最終試験などの各試験日から逆算してその日が何日前なのかを記入します。試験までの残日数に応じて、勉強のスケジュールが変わってくるからです。
具体的には、写真に示すように、論文式筆記試験まであと何日あるのかを日付の下に記入しました。常に試験日を意識して何をすべきかを考えることで、勉強に対する姿勢も変わってきます。
例えば、短答式筆記試験(弁理士試験の第1ステージ)まであと1年ある状態と、あと1か月しかない状態とでは、勉強する内容や方法が変わってきます。まだ1年ある状態であれば、短答式筆記試験でよく問われる暗記事項を覚えていても試験の時に忘れてしまうため覚える必要はありません。一方で、あと1か月となれば、知識を定着させるために暗記に重点的に取り組んでいく必要があります。試験まであと何日あるのかを具体的に意識することは重要です。

ここまでが合格未来日記の準備です。次からは実際に勉強に取り組むときの使い方です。

4.累積時間を記録する

講師をしているとき「どのくらい努力すれば合格できますか」という質問をされると、私は「弁理士試験に合格するために最低限必要と言われる時間はどれくらいだと思いますか」と聞き返します。この最低限必要と言われる時間は人により差はありますが、これまでに聞いた話などを総合すると1,500時間くらいは必要ではないかと思います。
1,500時間を1年で消化しようとすると、週に30時間くらいの勉強が必要です。週に30時間とすると、平日毎日3時間と週末15時間くらいになります。たしかに1年で弁理士試験に合格している人を見るとこれくらいの勉強をしているようです。

ここでの1,500時間というのはあくまで目安ですが、1つの目標にするにはいい数字だと思います。初級者の時には、法律を体系的に理解することができず分からない時間が長く続きます。法律の勉強は、ある程度の勉強をこなすと体系的に捉えることができるようになります。ただ、そこに至るまでには多くの時間をかけて特許法等の法律を勉強することが必要になります。
そうした前段階は、勉強していても理解がついていかずに勉強が嫌になってしまうことがあります。そんなときのためにも、勉強時間を記録します。勉強している内容があまり理解できなかったとしても、実際に勉強はできているのです。その事実だけでも記録し、自分で勉強ができているということを意識すれば、勉強を続けることができます。そうして累積の勉強時間が増えていけば、勉強の内容も次第に飲み込めていくでしょう。
そういった意味では、勉強時間は「累積」の時間を記録するとよいでしょう。例えば1,500時間とした最少の総勉強時間に向かってどれくらい勉強したかを把握できるからです。写真に示すように、当日の勉強時間とそれまでの総合勉強時間を記入します。

メジャーリーガーのイチロー選手が以前「首位打者のタイトルには興味がない」ということを言っていたように思います。その理由は、打率の順位は相手があってのことで自分の力ではどうにもすることができないからということでした。
そのため、イチロー選手は自分の力でどうにかできる安打数に興味を持っているようです。これを勉強にあてはめて考えるならば、自分の力でどうにかできることの1つは「勉強時間」です。勉強を続けること、勉強で内容を理解していくことは、自分との勝負であり、自分次第で質を高めることもできます。自分の力で何とかできるものである勉強時間を増やすことを1つの指標にしてもいいのではないかと思います。

また、累積の勉強時間を試験直前に見返すと自分がどれほどの努力をしてきたかを認識できます。「今の自分を支えているのは累積した勉強時間だ」と考えることができれば他の受験生に気後れすることもなく、自信を持って試験に挑めます。弁理士試験の最難関である論文式筆記試験では、水泳で例えるならばタッチの差程度で合否が分かれてしまいます。オリンピック選手も同じですが、最後は自分に自信がないと勝てないと思います。その意味でも自分自身に自信を付けるためにも勉強時間を累積していくことは大変役に立ちます。

5.無駄な時間を排除する

弁理士試験はできるなら早く合格したいものです。その第一の理由は、弁理士として仕事ができる時間が増えるためです。弁理士として仕事ができると給料が上がるのはもちろんですが、それ以上に仕事の幅が広がります。法律で定められた弁理士であるからこそできる仕事が存在します。そうした弁理士にしかできない仕事を早くこなして自分のスキルをアップさせるためにも早く弁理士に合格するべきです。

例えば、写真に示すように、時間の価値(自分の価値)を図にしてみます。横軸を時間の流れ、縦軸を時間の価値(自分の価値)とします。矢印は、弁理士受験生の時間の価値(自分の価値)を表します。
矢印で示すように、受験生の時間の価値(自分の価値)は、知的財産制度の知識が増えるので上昇します。弁理士に合格した場合には、矢印は急上昇します。例えば、1年後に合格した場合、2年後に合格した場合、3年後に合格した場合と、弁理士に合格することでその矢印は分岐し矢印の方向は急上昇します。その理由は、弁理士になることで弁理士にしかできない知的財産権の仕事の経験を積むことができ、自分の時間の価値に付加価値を追加することができるようになるからです。そのため、弁理士になり弁理士の仕事を行うことでその時間の価値は上がり続けていきます。

弁理士試験に合格するのが1年後なのか、2年後なのか、3年後なのかによりその価値の上昇時期が変わってきます。早く受かることができれば、それだけ早く弁理士の仕事をして経験を積むことができるため時間の価値(自分の価値)を向上させることができるのです。そのため、できるだけ早く合格した方がよいと考えています。

「合格未来日記」に勉強時間を記載すると、自分の貴重な時間をどれだけ使っているかを認識することができます。いま最大の努力をして1年でも早く合格すれば時間の価値が急上昇させられるが、努力を先延ばすれば価値の上昇は緩やかなままでもったいないことになると認識できるようになります。

具体的には、写真に示すような通勤時間、電車を待つ5分、お風呂に入っている20分等がもったいないと感じるようになります。
こうした細切れ時間をストップウォッチで計測してみると、私は1日で60分ほどありました。この60分を勉強の時間に回すだけで、1日の勉強時間のうち3分の1が片付きます。また、こうした細切れ時間を有効に使うことで、机で勉強する時間をさらに有効に使うことができるようになりました。

細切れ時間を使うときに気を付けることは、細切れ時間でできる勉強を常に手元に用意しておくことです。私は、暗記カードを常備して暗記に取り組みました。

また、飲み会などの誘いもよくあります。私もお酒が大好きなので我慢するのが大変でしたが、今後弁理士として活躍するために必要かどうかを考えて飲み会に行くかどうかは判断していました。少なくとも、飲み会に参加をしても二次会には参加しませんでした。今の貴重な時間を使って、将来弁理士として活躍するための有効な時間を稼いでいるという意識でいたからです。このように、今の時間の貴重さを知る上でも勉強時間を記載していくことは必要です。

6.勉強の記録を見てもらう

私は「合格未来日記」を付けたあと、週の最後には誰かに見てもらうことをおすすめしています。その理由は、頑張っている自分をほめてもらいましょうという理由です。
受験仲間や職場の同僚、家族など、見てくれそうな人にお願いしてみてください。

人間は「ほめてもらうこと」に欲求があると思います。フェイスブックの「いいね」ボタンのように、みんなに見てもらうことにある種の快感を持つようです。それと同じように、勉強の記録を身近な人に報告することで、勉強することを前向きに捉えられるでしょう。

また、弁理士試験の受験は自分で決めて始めたことだと思います。周囲がそのことに賛成しているか反対しているかは分かりませんが、身近な人に報告する意味でも勉強の記録を見てもらうことをお勧めします。自分が言い出したことを実行していると確認してもらうことが、弁理士試験を乗り切るためにも必要となるからです。

7.集中力の高め方

せっかく、時間を作っても集中力がなければ時間がただ過ぎるだけで意味がありません。

そこで、私は、集中するため以下の集中するパターンを作って自己暗示をしていました。具体的には、自習をする前には、写真に示す手帳の合格発表日のページを開きます。そのページには、人生で初めて見つけた四つ葉のクローバーが押し花として挟んであります。そのため、合格発表日を見ながら、押し花に手を当てて「自分は弁理士試験に合格するんだ」と言い聞かせて勉強を始めるようにしました。
傍から見ると少し妙な状況ですので、周りからは見えないようにやるといいかもしれません。私は、この集中パターンを作ることで、自分自身に暗示をかけるような形で勉強に集中できた気がします。集中するための行動は人それぞれ、何でもいいと思います。

集中して勉強をすることで時間の価値をさらに高めることができます。そのため、集中するための手段又は場所を自分で見つけることができればいいと思います。

まとめ

「合格未来日記」と名前を付けて合格への記録を付けてきましたが、私自身がこの日記を付け始めたのも勉強を始めてから2年経った後からです。それまでは、調子が良くないと言ってはさぼったりしていましたが、目に見える形で自分の勉強記録が残るようにすることで時間の意識が大きく変わりました。また、「勉強は量より質」とも言われますが、それはある程度の量をこなしてからの質だと思います。ある程度の量をこなしたからこそ、勉強をした中で必要な部分を拾って、必要でない部分を捨てるという、質の高い勉強を行えるようになるのだとも思います。そのため、まずは「質より量」を試してみてはいかがでしょうか。また、その量を記録することで自分が合格に近付いていることが目に見えて分かるため勉強のモチベーションを維持することにも役立ちます。

私は、アナログな手帳で「合格未来日記」を作っていましたが、最近でSNSやブログを活用してPCやスマートフォンで合格未来日記を作ってもいいかもしれません。

富澤 正

弁理士。当サイト『発明plus(旧:開発NEXT)』および同タイトルのフリーペーパーの編集主幹。
■経歴
知財コンサルタント。コスモス特許事務所パートナー。名古屋工業大学非常勤講師。
1980年愛知県生まれ。名古屋工業大学大学院修了。
特許業務の傍ら、知的財産の執筆活動・講演活動などを行う。自身の知的財産権を活かしてアイデア商品を作るベンチャー企業Time Factory株式会社を設立し、資格試験の受験生向けの商品などを手掛ける。
■専門分野
知財ビジネスマッチング、開放特許活用戦略、知財を活かしたビジネスモデル作り
■著書
『社長、その商品名、危なすぎます!』(日本経済新聞出版社)
『理系のための特許法・実用新案法』(中央経済社)
『理系のための意匠法』(中央経済社)
『理系のための商標法』(中央経済社)
■連載
『日経産業新聞』にて連載 (2017.5.12~20217.5.20)
『中部経済新聞』「みんなの特許」を毎週月曜日に連載中 (2014.4~現在)『サンケイビジネスアイ』「講師のホンネ」にて月1コラム連載 (2013.5~2014.1)
『日刊信用情報』にて「知財コンサルタント富澤正の「知的財産権を極める」」を週1コラム連載 (2013.9~2014.8)