はじめまして。コスモス特許事務所の弁理士の安田です。

さて、今年もいよいよ弁理士試験の受験シーズンに突入します。そんな中、合格後の身の振り方について悩んでいる人も多いことでしょう。弁理士の資格を最大限に活かすのであれば、やはり特許事務所に勤めるのが一番なのではないかと思いますが、知財業界未経験の方や、一般企業に勤めている方にとっては、特許事務所というのは何やら得体の知れないところであり、転職することに多少の躊躇いを感じるのが実際のところではないでしょうか。

実をいうと、私も某電子部品メーカーで開発一筋、知財業界は全くの未経験でした。それが昨年度の弁理士試験合格を機に一大決心をし、この春に特許事務所に転職したのです!

そこで、一般企業勤めからすると得体の知れない特許事務所に飛び込んだ経験者として、知財業界への転職を考えている方たちの「特許事務所って、一体どんなところなんだ!?」という疑問を少しでも解消できればと思い、転職をして感じたことなどを記してみたいと思います。
先ほども述べた通りこの春に転職をしましたので、特許事務所に勤めてまだ2か月程度です。まだまだこの業界のことを把握しきれておらず、今現在考えていることや感じていることが今後変化していくかもしれません。というわけで、今回はコスモス特許事務所に入って間もないフレッシュな生々しい印象をお伝え出来ればと思います。

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ルールがない!?

会社とは人の集まりです。集まった人達がそれぞれ好き勝手をやっていては会社の一体感が損なわれる恐れがあります。ですので、会社には会社のルールというものが少なからずあるものと思います。

例えば、私がもといた企業では、勤務時間は9時から18時までと決まっており、勤務時間中は好き勝手に外出することなど出来ませんでした。また、出張するには上司の承認が必要ですし、もちろん休暇の取得だって1週間くらい前には承認を得るようにしていました。

しかし、特許事務所においてそんな勤務に関するルールはほとんどありません!

勤務時間は一応決まっているようですが、出社時間・退社時間はかなり自由なので、決まりはあってないようなもの。というより、もはや本当に時間が決まっているのかどうかすら疑わしいくらいです。勤務時間中の外出も自由なので、ちょっと小腹が空いたからフラッとコンビニへ…とか、仕事が煮詰まってきたからちょっと散歩でも行ってこようか、なんていうのも自由。出張や休暇も個人の裁量に任せられ、承認申請なんてものは存在しません。

はっきり言って、私のように今まで企業で管理されていた身にとってはとてつもない違和感があり、ルールが無いことに妙な不安を感じてしまいます。あまりの違和感と不安に、以前に勤めた企業では始業時間の9時ギリギリに出社していたというのに、今では8時くらいには到着してしまうくらいです。また、出張や休暇取得をするにしても、「本当に誰の許可もなく事務所を不在にしてよいのか…?」、と誰に向けるでもない疑念がなかなか解消されません。

この違和感と不安は、未経験の業界に飛び込んだがゆえに何をどうしたら良いかよく分かっていない、ということが原因とも思えますが、自分で判断したことに対して自分で責任を取らなければならなくなる怖さ、が最大の原因なのではないかと感じています。「自由には責任が伴う」とはよく言ったものです。

これまで企業に勤めていた時は、上司の承認をもらうことで、心の内のどこかに「自分の判断ではない」という逃げ道を作っていたのだろうな、と気付かされました。特許事務所で弁理士として働いていくには、ルールが存在しない分、自分で自分の上司になるような責任力が必要となるだろうと感じております。

他人に興味がない!?

繰り返しになりますが、会社は人の集まりです。ですので、チームプレーで仕事を進めていく機会が多いと思います。私は前職で製品開発をしておりましたので、一つの製品を作り上げるにしても、課内における協力だけでなく、営業・生産技術・工場などの関係部署間での協力が不可欠であることがほとんどでした。

一方で、特許事務所における弁理士の仕事はどうかというと、今のところ基本的に個人プレーであることが多いと感じています。明細書や意見書を書くために、どんな文章表現にするべきかパソコンに向かって考え続ける、ひたすら自分と闘っているような気分になります。

ですので、基本的に他の人がしていることに干渉しません。また、先ほど述べた通り出張や休みも自由なので、「事務所に誰がいて誰がいないのかよく分からん」なんて話を先輩から聞いたりしますし、現に私もよく把握していません。そのせいか事務所内では会話が少なく、非常に静かです。コピー機やシュレッダーの作動音が響くのはもちろん、電話をする声も事務所中に聞こえてしまうので、相手方から怒られそうなヤバめの電話は絶対にしたくない感じです。

そのような雰囲気ですので、事務所の人たちは他人に興味がないのではないか!?と心配になってしまうのですが、本当に全く他人のことを見ていないかというと、そこはやはり人間です。見てないようで見ているのです。ややこしい…!
ですので、休暇取得が自由だからといって休みまくっていると、「あいつ仕事してない!」と周りから目を付けられてしまうかもしれません。このあたりは一般企業とあまり変わりありませんね。

「仕事は自分との闘いだ」とか、「事務所が静かだ」とか言ってしまうと、士業に華やかなイメージを持っている方にとっては少し意外に思えてしまうかもしれません。たしかに、弁理士の仕事の性格上、どうしても事務所に籠る時間が長くなるので、華やかさはないかもしれません。しかし、先に述べたように、ルールはほとんどありませんので、弁理士という肩書を活かし、華やかさを求めて動き回るということも出来るのではないかなと思います。私も、華やかさを求めるわけではありませんが、事務所で明細書を書く以外に自分にはどんなことが出来るだろうかと模索しています。

ですので、特許事務所に転職を考えている方は、漠然と「弁理士になりたいな~」ではなく、自分がなりたい弁理士像を予め考えておくのが良いのではないでしょうか。

いつ転職するべきか!?

弁理士試験受験者にとっては、もし特許事務所に転職するとしても、どんなタイミングで転職すれば良いのか…というところも気になるところではないでしょうか。受験生の中には、「今の仕事が嫌でしかたないから、合格したらとっとと辞めてやる!」というような方もいるかもしれません。

しかし、知財業界未経験で合格後にいきなり特許事務所に転職をすると、弁理士でありながら実務のことを殆ど知らないという完全なる肩書負け状態となり、少し悔しい気持ちを味わうことになるかもしれません。しかも、いくら知財業界で新人とはいえ、対外的には弁理士であることには変わりありませんので、肩書がプレッシャーとなる可能性があります。現に、私がまさにそのような状態です。

このような場合、悔しさやプレッシャーをバネに頑張れるということもあるかもしれません。しかし、しっかり教育をしてくれるような事務所を選んで転職をしないと、実務に慣れるのに非常に苦労する可能性があります。

私は、転職先の特許事務所の先輩方が非常に親切で、恵まれた環境にあると感じていますが、それでもやはりもっと早くこの業界に入っておきたかったという気持ちがあります。このことを考えると、まずは(可能であれば)所属している企業の知財部に転籍させてもらって知財のイロハを身に着けて、その後に特許事務所への転職を検討するというのも、転職をするに当たっての順当なルートではないかと思われます。

最後に

以上、一般企業から特許事務所に転職を考えている方に向けて私の体験談を書いてみました。が、もちろん転職を勧めるようなものではありません。

おそらく、弁理士試験という難関試験を受けようという方達は、現状を打破したいという考えを持った方が多いのではと思います。現に私もそうでした。「現状の打破」というと、「転職」という言葉が出てきやすく、合格を機に転職してしまおうと考えるかもしれません。そして、転職こそが勇気ある行動というような風潮も無きにしも非ず、です。

私自身の話をすると、先のことはまだまだ分かりませんし、弁理士として一刻も早く成長しなければ、という焦りがあるものの、勇気をもって思い切った転職をしたという自負や、良い事務所に転職できたという思いがあり、現状に満足しています。

しかし、転職以外にも現状を打破する方法があるかもしれませんし、転職をせずに今いる企業で頑張っていこうと積極的に考えて決断することも勇気のあることのようにも思います。人それぞれ置かれている状況などにより様々な選択肢があるはずですので、みなさんが合格後により幸せな選択ができることを祈っております。

安田 宗丘

弁理士。特許業務法人コスモス特許事務所勤務。

専門分野は機械。某電子部品メーカーでエンジニアとして約13年間勤務。
娘の“アナ雪“好きにつられ「ありのまま」の自分を模索する中、弁理士試験合格を機に特許事務所へ。転職とともに神奈川県民から愛知県民となり、慣れない土地と仕事に日々奮闘中。