前回、TPP協定に関する著作権法の改正について説明しました。今回紹介する2019年1月1日施行の改正は、いずれも「著作権の制限」を拡大させるものです。著作権の制限とは、一定の行為については著作権に関する制約を受けずに著作物を利用できるようにするもので、すなわち「著作権の効力を制限する範囲」のことです。つまり、これまで著作権者の許諾を得る必要があったものについて、
今後は条件等を満たせば許諾を得ることなく自由に利活用ができるようになるケースがあります。

PC上のソフトウェアのイメージ

photo by PIXTA

今回の改正では、主に次の4つの目的のために、権利制限規定の見直しがなされました。

  1. デジタル化・ネットワーク化の進展
  2. 教育の情報化
  3. 障害者の情報アクセス機会の充実
  4. アーカイブの利活用促進

今回は、特にITや情報通信に携わるような方に是非とも押さえて頂きたい、デジタル化・ネットワーク化の進展を目的とした改正を重点的に解説をしたいと思います。

文化庁の著作権審議会では、社会的意義・公益性と権利者に及ぶ不利益の度合いにより第1層から第3層まで3つの層に分け、それぞれの層について柔軟性を確保した規定が整備されました。

第1層
権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型
第2層
権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型
第3層
著作物の市場と衝突する場合があるが、公益的政策実現等のために著作物の利用の促進が期待される行為類型

デジタル化・ネットワーク化の進展を目的として、特に第1層、第2層に該当する行為類型について下記のとおり、改正が行われます。

1. デジタル化・ネットワーク化の進展を目的とした改正

第1層 権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型(第30条の4、第47条の4)

この行為類型には、著作物を享受(観賞等)する目的ではない利用が含まれます。

第30条の4

次の3つの条件を満たせば、どのような著作物でも、いずれの方法によるかを問わず(複製、譲渡、公衆送信だけでなく、翻案、二次的著作物の創作と利用等についても)利用できます。

  • 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としないこと(例えば、技術開発・実用化のための試験、情報解析など)
  • 必要と認められる限度であること
  • 著作権者の利益を不当に害しないこと

例えば、下記のようなことが可能となります。

  • 機械学習(深層学習・ディープラーニング)に利用する目的で著作物を複製
  • 蓄積されたデータを、AIを開発する目的で他の事業者と共有
  • 基礎研究の試験素材として著作物を利用
  • システムのバックエンドで行われるデータの複製
  • プログラムの調査・解析のために行うリバースエンジニアリング

第47条の4

次の3つの条件を満たせば、どのような著作物でも、いずれの方法によるかを問わず利用できます。

  • 次のいずれかに該当すること
    • 電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために、当該利用に付随する利用に供することが目的であること
    • 電子計算機における利用を行うことができる状態を維持することが目的であること
    • 電子計算機において利用ができる状態に回復することが目的であること
  • 必要と認められる限度であること
  • 著作権者の利益を不当に害しないこと

これまであった「自動公衆送信等の求めが集中することによる送信の遅滞の防止」「自動公衆送信装置等の故障による送信の障害の防止」という限定がなくなりました。また、「製造上の欠陥」「販売に至るまでの過程において生じた故障」の限定もなくなり、さらには記録(複製)先が「同種の機器」から「同様の機能を有する機器」へと緩和されました。
例えば、下記のようなことが可能となります。

  • 高速化を目的とするミラーリング
  • CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)の構築
  • 携帯電話の機種変更のためのデータ複製

第2層 権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型(第47条の5)

この行為類型には、新たな情報・知見を創出するサービスの提供に付随して、著作物を軽微な形で利用する場合が含まれます。

第47条の5第1項(情報処理結果の提供)

次の全ての条件を満たす場合に著作物を利用できるようになります。

  • 電子計算機を用いた情報処理であること
  • 新たな知見又は情報を創出することによって著作物の利用の促進に資する行為であること(情報検索、情報解析、その他国民生活の利便性の向上に寄与するもの)
  • 公表又は送信可能化された著作物であること
  • 行為の目的上必要と認められる限度であること
  • 行為に付随して(情報処理の結果の提供が「主」で、著作物の提供が「従」であること)
  • 軽微なものであること(利用に供される部分の割合、量、表示精度等によって判断)
  • 著作権者の利益を不当に害しないこと

第47条の5第2項(情報処理結果の提供のための準備)

次の全ての条件を満たす場合に著作物を利用できるようになります。

  • 第1項条件2(新たな知見又は情報を創出することによって著作物の利用の促進に資する行為)の準備を行うこと(例えば、情報収集、情報整理など)
  • 公衆への提供又は提示(送信可能化を含む。)が行われた著作物であること
  • 軽微利用の準備のために必要と認められる限度であること
  • 複製、公衆送信(自動公衆送信の場合は送信可能化を含む。)、頒布を行うこと
  • 著作権者の利益を不当に害しないこと

第1項は、情報の結果を提供する際に、その著作物の一部を表示しなければならないようなケース(例えば、インターネット検索サービスの結果一覧画面(結果表示が主たる目的であるものの、どのような内容か判断できるようコンテンツの一部も表示される))を想定しています。
但し、この行為は、少なからず著作権者に不利益が生じるため、著作物の提供が軽微であることや、公表又は送信可能化された著作物であること、などの条件が付されています。そのため、コンテンツの表示そのものが目的であるようなケース(漫画の全文を提供することが目的であるサイトなど)は対象に含まれません。十分な注意が必要です。

第2項は、このような結果を提供するための準備行為が該当し、例えば、「複製」(書籍のPDF化など)、データ提供のための「公衆送信」(サーバーを通じてのデータ送信など)、「頒布」(データを記録したHDD等の譲渡・貸与など)が認められています。実際の提供者だけでなく、他の者が提供のために準備を行うことも認められるようになっているところがポイントです。
さらに、準備行為においては、「軽微」の条件がないため、著作物の全文のデータ化、クローリングも可能です。(もちろん、提供時には1項にあるように軽微な提供に限られます)また、第1項では「公表又は送信可能化された著作物」が対象でしたが、第2項では、公衆へ提供されていればよく、公表の要件を必要としていません。

例えば、下記のようなことが可能となります。

  • インターネット検索サービス(ウェブページの一部を表示するもの)
  • 書籍検索サービス(書籍の一部を表示するもの)
  • 鼻歌検索サービス(該当する楽曲の一部を提供するもの)
  • 電車遅延情報提供サービス(遅延情報の根拠となるページの一部を表示するもの)

第3層 著作物の市場と衝突する場合があるが、公益的政策実現等のために著作物の利用の促進が期待される行為類型

この行為類型には例えば、教育目的、図書館利用目的、障害者のアクセス機会の充実などが含まれます。

2. 教育の情報化を目的とした改正

施行日について「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」となっていますが、いつになるかまだ決まっていません。

3. 障害者の情報アクセス機会の充実を目的とした改正(第37条第3項)

「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」の記載が「視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者」になりました。これはマラケシュ条約締結のために盛り込まれたもので、改正により、視覚以外の障害(例えば肢体の不自由など)によって、本などを読むことができない方々なども対象となります。

「自動公衆送信(送信可能化を含む。)」の記載が「公衆送信」となり、これにより、例えばメールやFAXでの送信サービスなども認められるようになりました。

4. アーカイブの利活用促進を目的とした改正(第31条、第47条、第67条)

国立国会図書館が、絶版等となってしまった資料について、外国の図書館等(図書館に類する外国の施設で政令で定めるもの)にも送信することができるようになりました。(第31条)

美術館など(美術・写真の著作物の原作品を展示する者)が、観覧者に対して、作品の解説・紹介をするために、電子機器等に展示物を掲載(上映又は自動公衆送信)することができるようになりました。(第47条)元々、小冊子への掲載は認められていましたが、昨今は、タブレット等での展示品解説や、作品紹介のためにインターネット上に画像を公開するケースなども想定されることから、改正に至ったものと考えられます。

著作権者が不明である場合には、文化庁長官の裁定を受けて補償金を供託する、いわゆる裁定制度というものがありますが、国や地方公共団体などが著作物を利用する場合には、供託の必要がなくなりました。なお、著作権者と連絡が取れるようになった場合には、補償金を著作権者に支払う必要があります。(第67条)

「著作権法改正について」の連載記事

愛知県出身。弁理士。
現在は東京に住んでいるが、
慣れ親しんだスガキヤのラーメン(ソフトクリームは必ず付ける派)が食べられず、寂しい思いをしている。