弁理士の安田です。私事ですが、昨年から愛知県民となって自動車が生活に必須のアイテムとなりました。そのせいか、急激に車を運転する楽しさに目覚めつつあります。以前は運転することに対し興味がほとんど無かったため、久しぶりに会った知人にも、ちょっとおかしいのではないかと思われる始末です。

そんな私が、最近気になっている自動車メーカーの1つがマツダです。必ずしも流行に乗らず、内燃機関に拘り続けるエンジニア魂も注目すべきところですが、100人いれば2人の心を捉えれば良いというニッチ志向なブランド戦略も特徴的です。
このようなブランド戦略の一環と思われますが、ここ数年のマツダ車は、フロントグリルシグネチャーウイングが特徴的で、一目でマツダの車だと分かるようになっています。自動車の正面は最も目につきやすいため、他メーカー車でもフロントグリルによって差別化を図られています。
トヨタ自動車(レクサス)のスピンドルグリルも有名ですね。

photo by PIXTA

フロントグリルのデザインは、美的な創作物でありながらも、どのメーカーの自動車なのか出所を示す目印にもなり得ます。したがって、美的創作物としての意匠としてはもちろんのこと、商標としての保護を受けることができる可能性があります。

マツダのシグネチャーウイングとトヨタ自動車のスピンドルグリルの形状について、意匠または商標での権利化状況を見てみましょう。
マツダは意匠のみで権利化しているとみられますが(意匠登録第1522355号等)、トヨタ自動車は意匠と商標の双方で権利化をしているとみられます(意匠登録第145065号,商標登録第5534722号等)。

意匠のみで権利化

何故、マツダは意匠のみで権利化をし、商標での権利化を図っていないのでしょう。

理由の1つとして推測されるのが、商標の使用義務です。商標権は更新可能な半永久権ではありますが、登録商標を使用しなければ取消審判によって登録が取り消される可能性があります。この「使用」は登録商標そのものを使用している必要があり、類似のものでは基本的には認められません。

フロントグリルの形状は、車種によるアレンジや、流行による変化など、全く同じ形状が使い続けられることは非常に稀であると考えられます。そうすると、フロントグリルの形状の商標権を取得していたとしても、同一の登録商標を使用しているとは言えなくなり、その権利は取消が危惧されるところとなります。

このような考えがあってか、安定性に不安のある商標権はとりあえず置いておき、当面の20年の保護が可能な意匠権によってのみ保護を図っているのかもしれません。

ただし、この先の戦略については商標権取得の可能性もあります。
使い続けるか分からないフロントグリルの形状についていきなり商標権を取得するのではなく、意匠権によってデザインを独占している間にブランド構築を図り、それがが成った暁に半永久権である商標で権利を取得する、ということも十分に考えられます。

関連記事:特許終了後は商品を商標登録で守る

意匠と商標の双方で権利化

そうであるならば、トヨタ自動車はなぜ意匠と商標の双方で権利化をしているのでしょう。

上にも書いたように、商標権者は登録商標の使用をしなければならず、登録商標に類似の商標を使っても、登録商標の使用とは認められず、取り消しとなるおそれがあります。この点を考慮すると、スピンドルグリルの商標での権利化は、ちょっとやそっとではフロントグリルの形状を変更することはないというトヨタの強い意志の表れであると考えることができます。
「スピンドル」とは日本語で「紡錘」のことですので、自動織機を源流とするトヨタ自動車にとって、スピンドルグリルは思い入れが強いデザインなのでしょう。

また、意匠と商標の双方で権利化しておけば、侵害された場合に意匠権侵害と商標権侵害とで複合的な訴訟を提起することができます。複合的な訴訟となると、侵害者側は意匠権侵害と商標権侵害の双方で勝たなければ差し止めを受けるおそれがあるのに対し、権利者側はどちらかで勝てば差し止めすることができるため、権利者側にかなり有利に働きます。

今回は意匠と商標にフォーカスしましたが、フロントグリルが、例えば空気抵抗の低減に優れる等の技術的な側面を有していれば、特許取得の可能性があることは言うまでもありません。

安田 宗丘

弁理士。特許業務法人コスモス特許事務所勤務。

専門分野は機械。某電子部品メーカーでエンジニアとして約13年間勤務。
娘の“アナ雪“好きにつられ「ありのまま」の自分を模索する中、弁理士試験合格を機に特許事務所へ。転職とともに神奈川県民から愛知県民となり、慣れない土地と仕事に日々奮闘中。