「当たり前」の判断基準は?

今年も花粉の飛散量は多く、花粉症に悩まされたという方も多かったのではないかと思います。今回は花粉症対策グッズの商標にまつわるコネタをお話しようと思います。

商標の業界では有名なのですが、のど飴を含む商品を指定した登録商標「花粉」が存在します(商標登録第1650420号)。さらに、15年ほど前には「花粉のど飴」を販売することは商標権の侵害であると判断された裁判例も存在します。

当たり前のように使われている言葉だと思って商品名をつけると、危ないこともあるという事案です。

原則として商品の普通の名称やモノを表す当たり前の言葉は商標登録できません。しかし、なぜ「花粉」という当たり前に思える言葉が登録商標として認められたのかというと、「花粉」という言葉を「のど飴」の名称とすることは当たり前の名称ではなく、また、のど飴の原材料・効能・用途などの性質を意味する言葉ではないため、特許庁の審査で引っかかることなく、商標登録できたのです。

商品との関係によって異なる基準

名称が一般的な言葉かどうかは商品との関係で決まります。例えば、「Apple」という言葉は「りんご」との関係では一般的な名称ですが、「携帯電話」となると一般的な名称とは言えませんので商標登録が認められます。

商品との関係で一般的な名称と言えるかどうかは時代によっても変わってきます。
のど飴についての「花粉」が商標登録されたのは昭和59年のことで、裁判で争われたのは平成15年のことです。

今ではさらに時が経ち、花粉症も現代病と言われるほどに増加しています。
そうすると花粉症対策を謳うのど飴もたくさん出回るようになりますので、「花粉」という言葉がのど飴の「花粉症対策」という効能を示す言葉として認知されるようになるとすると、もしかしたらのど飴に「花粉」と付けることは商標としての表示ではなく、単に効能を示す表示に過ぎないものとして、商標権の侵害に該当しないとの判断も出てくるかもしれません。

一般化になった商標

特定の商品を示す登録商標だったものが当たり前の名称として一般化した例もあります。

エレベーター」「シャープペンシル」などは、過去には登録商標でしたが同種の商品について広く用いられ、現在では普通名称化してしまいました。結果、誰の商品について用いても商標権の侵害とはならなくなりました。
その他にも「正露丸」や「うどんすき」も登録商標でしたが現在では普通名称化していると判断されています。

一般化(普通名称化)した名称は誰もが商品名に用いることができます。しかしながら、この判断は特許庁や裁判所が行うものであり独断で判断してしまうと、「花粉」の裁判例のように痛い目に遭うこともありえます。

まずは使おうと考える名称について商標登録があるかどうかを調べ、万が一他人の登録商標が存在する場合には、一般的な名称等になっているかなどを慎重に検討するというプロセスを踏みます。

富澤 正

弁理士。当サイト『発明plus(旧:開発NEXT)』および同タイトルのフリーペーパーの編集主幹。
■経歴
知財コンサルタント。コスモス特許事務所パートナー。名古屋工業大学非常勤講師。
1980年愛知県生まれ。名古屋工業大学大学院修了。
特許業務の傍ら、知的財産の執筆活動・講演活動などを行う。自身の知的財産権を活かしてアイデア商品を作るベンチャー企業Time Factory株式会社を設立し、資格試験の受験生向けの商品などを手掛ける。
■専門分野
知財ビジネスマッチング、開放特許活用戦略、知財を活かしたビジネスモデル作り
■著書
『社長、その商品名、危なすぎます!』(日本経済新聞出版社)
『理系のための特許法・実用新案法』(中央経済社)
『理系のための意匠法』(中央経済社)
『理系のための商標法』(中央経済社)
■連載
『日経産業新聞』にて連載 (2017.5.12~20217.5.20)
『中部経済新聞』「みんなの特許」を毎週月曜日に連載中 (2014.4~現在)『サンケイビジネスアイ』「講師のホンネ」にて月1コラム連載 (2013.5~2014.1)
『日刊信用情報』にて「知財コンサルタント富澤正の「知的財産権を極める」」を週1コラム連載 (2013.9~2014.8)