HV特許を開放したトヨタ

トヨタ自動車(愛知県)がハイブリッド車(HV)に関係する特許を無償開放するということが報じられています
トヨタ自動車は、プリウスをはじめとするHVのパイオニアであり、HVに関係する特許権を多数持っていることから、このことは大きな話題となりました。これまで燃料電池車(FCV)に対しても特許を開放していましたが、広く実用・普及しているHVについての特許も開放することはさらに大きな影響がありそうです。

特許は、特許権を保有する企業がその技術を独占できるため、これまではHVに関してトヨタ自動車が他社をリードする状況が続いていました。これが、今回の特許開放によって他社もHVについての力を得ることになります。

トヨタ自動車にとっての利益としては、1つに自社のHV技術を使った自動車が増えることでHVのデファクトスタンダード(事実上の標準)を形成できるという点が考えられます。

標準化

今後HVは環境規制の強化などからさらに普及し、自動車全体の中でもシェアを広げていくと考えられます。そこでデファクトスタンダードを形成するなどして自社技術を技術的な標準に組み入れることができれば、拡がる市場の中で自社技術を共通の基盤とすることができます。そのため、技術市場における製品開発を主導できるようになるのです。

標準化の話題で有名なのが、日本ビクターが開発し特許権を多数保有していたVHSがあります。技術的に優れた点があったベータではなく、多くのメーカーから支持されたVHSが規格としての標準となりました。VHSが市場標準となってからは、日本ビクターは先だって保有していた特許権を活用して次々と新製品を打ち出し、ビデオ市場において大きな利益を上げました。

標準化と特許権

標準化と特許権は裏返しの関係にあるようにも感じるかもしれません。
元々、特許権は技術の独占により利益を上げようとするのに対して、標準化は業界共通で技術を使うことを考えます。しかしながら、標準化を推進する場合には、これを主導するために特許権が活きてきます。
特許権がない状況では先行者利益を十分に確保できず実用レベルの技術開発を進めることは困難です。特許権という強い権利によって市場の中心にいられることで、標準化についても適切にコントロールできるようになるのです。

日本の携帯電話は世界的な標準化から離れてガラパゴス化したと言われます。ガラパゴス化した場所でいくら特許権を持っていても、その特許権を活用するシーンが少なくなります。
トヨタ自動車が行った特許開放による技術標準化の戦略は、多くの人が技術を利用するフィールド、つまり標準化が行われるようなフィールドで多くの特許権を持つ場合にとれる戦略だとも言えます。

富澤 正

弁理士。当サイト『発明plus(旧:開発NEXT)』および同タイトルのフリーペーパーの編集主幹。
■経歴
知財コンサルタント。コスモス特許事務所パートナー。名古屋工業大学非常勤講師。
1980年愛知県生まれ。名古屋工業大学大学院修了。
特許業務の傍ら、知的財産の執筆活動・講演活動などを行う。自身の知的財産権を活かしてアイデア商品を作るベンチャー企業Time Factory株式会社を設立し、資格試験の受験生向けの商品などを手掛ける。
■専門分野
知財ビジネスマッチング、開放特許活用戦略、知財を活かしたビジネスモデル作り
■著書
『社長、その商品名、危なすぎます!』(日本経済新聞出版社)
『理系のための特許法・実用新案法』(中央経済社)
『理系のための意匠法』(中央経済社)
『理系のための商標法』(中央経済社)
■連載
『日経産業新聞』にて連載 (2017.5.12~20217.5.20)
『中部経済新聞』「みんなの特許」を毎週月曜日に連載中 (2014.4~現在)『サンケイビジネスアイ』「講師のホンネ」にて月1コラム連載 (2013.5~2014.1)
『日刊信用情報』にて「知財コンサルタント富澤正の「知的財産権を極める」」を週1コラム連載 (2013.9~2014.8)