HV特許を開放したトヨタ

2019年4月、トヨタがハイブリッド車(HV)に関係する特許を無償開放すると発表しました。このニュースは、プリウスをはじめとするHVのパイオニアであるトヨタの特許を無償で実施できるようになるとあって、大きな話題となりました。トヨタは2015年にも燃料電池車(FCV)の特許権を開放していましたが、現状で広く普及してきているHVについての特許権を開放することはFCVの開放以上に影響がありそうです。

特許は持っている企業が技術を独占できるため、HVに関して多くの特許を保持するトヨタが他社をリードする状況が続いていました。これらの特許が無償で開放されると、他社にとってはトヨタの特許技術を利用してHVの開発を進めることができるというメリットがあります。そして、トヨタにとっては自社のHV技術を使った自動車が増えることでデファクトスタンダード(事実上の標準)を形成していくことができるというメリットがあります。特許を開放して多くの企業に使ってもらうことで、トヨタの技術が標準規格として通用していくことになるのです。

デファクトスタンダードの効果

今後、HVは環境規制の強化などからさらに普及し、シェアを広げていくと考えられます。デファクトスタンダードを形成していくことができれば、市場が広がる中で、自社技術を基盤とした開発を進めることができます。そのため、先駆けて製品開発を進めることで市場競争を進めることができるようになるのです。

デファクトスタンダードの事例で有名なのが、日本ビクターが開発したVHSです。家庭用テープレコーダーの規格として技術的に優れていたソニーのベータよりも、多くのメーカーから支持されたVHSがデファクトスタンダードを形成しました。日本ビクターは多数の特許権を保有していたことから、次々と新製品を出すことに成功し、大きな利益を上げました。

標準化と特許権

標準化と特許権は相反する関係のように感じるかもしれません。通常、特許権は独占することで利益を得るのに対して、標準化はみんなに使ってもらい支持を得ることで利益を上げていくためです。しかし、特許権がなければ標準化を進めることは困難です。特許権という強い権利があるからこそ市場の中心にいることができ、デファクトスタンダードの形成(事実上の標準)に挑戦することができるのです。

携帯電話市場において、日本はガラパゴス化したといわれます。つまり、世界の標準から離れてしまったのです。ガラパゴス化した場所でいくら特許権を持っていても使う人がいなければ意味がありません。デファクトスタンダードの形成(事実上の標準)は、多くの人が使う場所、つまり標準化するような場所で多くの特許権があればこそできる戦略だといえます。

富澤 正

弁理士。当サイト『発明plus(旧:開発NEXT)』および同タイトルのフリーペーパーの編集主幹。
■経歴
知財コンサルタント。コスモス特許事務所パートナー。名古屋工業大学非常勤講師。
1980年愛知県生まれ。名古屋工業大学大学院修了。
特許業務の傍ら、知的財産の執筆活動・講演活動などを行う。自身の知的財産権を活かしてアイデア商品を作るベンチャー企業Time Factory株式会社を設立し、資格試験の受験生向けの商品などを手掛ける。
■専門分野
知財ビジネスマッチング、開放特許活用戦略、知財を活かしたビジネスモデル作り
■著書
『社長、その商品名、危なすぎます!』(日本経済新聞出版社)
『理系のための特許法・実用新案法』(中央経済社)
『理系のための意匠法』(中央経済社)
『理系のための商標法』(中央経済社)
■連載
『日経産業新聞』にて連載 (2017.5.12~20217.5.20)
『中部経済新聞』「みんなの特許」を毎週月曜日に連載中 (2014.4~現在)『サンケイビジネスアイ』「講師のホンネ」にて月1コラム連載 (2013.5~2014.1)
『日刊信用情報』にて「知財コンサルタント富澤正の「知的財産権を極める」」を週1コラム連載 (2013.9~2014.8)