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特許の分割出願とはどのような制度でしょうか?
特許の分割出願とは、2以上の発明を包含する特許出願の一部の発明について、新たな特許出願をすることをいいます(特許法第44条第1項)。
特許出願は、原則、出願をした日が出願日になりますが、分割出願は、後述する分割要件を全て満たすことを条件に、原出願(分割前の出願)を出願した日にされたものとみなす遡及効が得られます(特許法第44条第2項)。
遡及効について具体的に説明すると、例えば図1に示すように、平成27年6月1日に、発明Aと発明Bを記載した原出願αが出願され、平成29年6月1日に、原出願αの発明Bについて分割出願βを適法に行った場合、分割出願βの出願日は、平成29年6月1日ではなく、平成27年6月1日とみなされます。
遡及効は、特許要件の判断に影響します。例えば、特許法は、最先の出願に特許を付与すると規定しています(先願主義、特許法39条)。例えば図1の例で、平成28年6月1日に発明Bに係る特許出願γがされた場合、分割出願βは、原則に従えば、特許出願γの後願になり、特許を取得できません。しかし、適法な分割出願βは、遡及効が認められるため、特許出願γの先願と扱われ、他の特許要件を満たすことを条件に、特許を取得できます。
分割出願βの遡及効が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
分割出願βの出願時に、分割出願βの出願人が原出願αの出願人と一致していること(特許法第44条第1項柱書)。
のいずれか
のすべてを満たす
また、原出願と別の出願という扱いなので、改めて出願手数料の納付が必要で、実運用上は分割の根拠などを説明する上申書を分割出願と同時に提出します。上申書の記載例については特許庁のWebサイトで説明されていますので、ご確認ください。
尚、分割出願は、分割要件を満たせば、何回でも行うことができます。よって、1つの特許出願から複数の分割出願を行うことが可能です。また、ある特許出願(親出願)を原出願として分割出願(子出願)を行い、更にその子出願を原出願として分割出願(孫出願)を行うこともできます。
このような分割出願の活用例として、以下の事例が考えられます。
例えば、特許請求の範囲に発明Aと発明Bを記載した原出願αについて、発明Aには拒絶理由がないが、発明Bには拒絶理由があるとの拒絶理由通知書を受けた場合に、原出願αの特許請求の範囲から発明Bを削除する補正を行い、削除した発明Bについて分割出願する。この場合、発明Aについては原出願αにて早期権利化を図り、発明Bについては分割出願βにてじっくり拒絶理由を争うことができます。但し、分割出願βについて審査請求料を別途納付しなければならないことに、ご留意下さい。
また例えば、原出願αでは、発明Aと発明Bのうち、発明Aが重要であると考え、発明Aのみを特許請求の範囲に記載したが、出願後に、発明Bも大きな効果を発揮することが判明した場合であって、発明Aと発明Bが発明の単一性の要件を満たさない場合に、発明Bについて分割出願する。この場合、発明Aと発明Bのそれぞれについて広い権利を取得することが可能になります。
また例えば、原出願αの出願後に、競合品を発見した場合には、原出願αに記載した範囲内で競合品を含むように特許請求の範囲を記載し、分割出願βを行う。これによれば、分割出願βについて特許を取得した後、競合他社に権利行使しやすくなります。
このように、特許の分割出願は、拒絶理由を解消する手段としてだけでなく、戦略的に使用することもできます。競合品などを発見された場合には、お近くの弁理士に一度ご相談下さい。
回答日:2017年9月7日